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2014年2月 5日

とっぴんぱらりの風太郎(万城目学)


首尾よく事が運んだと思ったのもつかの間、風太郎は伊賀を追い出されることになってしまった。悶々とした日々を過ごす風太郎の前に、不思議な人物が現れた。その人物とひょうたんの関わりとは?そして、風太郎は気づかぬままに、いつしか時代の大きなうねりに飲み込まれようとしていた・・・。

黒弓と一緒に仕事をしたのが不運だった。そのせいで風太郎は伊賀を追われ、京都にやって来た。だが風太郎は、おのれの意思で行動しているようでも実は巧妙に行動をコントロールされていた。人の命の重さなんて考えたこともない連中に、まるで道具のように扱われる。生きるか死ぬか、ギリギリのところで風太郎は踏みとどまっている。その姿は、哀しくて切ない。そして、秀吉の妻ねねの頼みで知り合った"ひさごさま"の運命も切ない。それが"さだめ"だとすべてを受け入れようとする姿は、胸を打つ。
後半の大阪城最後の戦いの描写は圧巻だった。戦って人が死ぬとはこういうことなのか・・・。大切な人、かけがえのない人が、次々と喪われていく。読んでいてつらい。けれど、それは過去に起こった残酷な現実なのだ。徳川泰平の世のために、いったいどれだけの命が消えたことか。
ラストも、とても印象に残った。風太郎に思いを寄せる芥下(げげ)はこの先どうなるのか?思い描いていたラスト(こうなればいいという希望のラストでもあったが)とは、かなりかけ離れていた。作者に現実の厳しさを突きつけられた。
700ページ以上の大作だが、まったくその長さを感じなかった。それほどこの作品にのめり込み、夢中で読んだ。発想、作品の構成力、個性的で魅力的な登場人物、戦いのシーンのリアルな描写、そして結末の見事さ、どれをとっても素晴らしい。とても面白い作品だった。

ゆこりん : 17:26 | 作者別・・まきめまなぶ