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2013年12月26日

倒立する塔の殺人(皆川博子)


戦時中のミッションスクールで流行していた小説の回し書き。「倒立する塔の殺人」とタイトルが記された本は、三人の少女たちによって物語が書かれていた。その物語を書いたひとり上月葎子は、空襲のときに不可解な死を遂げる・・・。「彼女の死の謎は、この本の中に!?」意外な真実が浮かびあがろうとしていた。

戦時中の緊迫した状況の中、しかもミッションスクールという独特の雰囲気の中で事件は起こった。上月律子の死は、ごく一部の少女たちが疑問を抱くだけで、単なる不幸な出来事として処理された。「何かが隠されているはずだ!」現実の出来事と「倒立する塔の殺人」の物語の内容が微妙に絡み合い、少女たちは少しずつ少しずつ死の真相に近づいていく。その描写は巧みで、読み手である私は作者に翻弄されるばかりだ。一筋縄ではいかない真実。二重三重に張り巡らされた"仕掛け"には思わず感嘆の声を上げた。
登場人物やその人物たちを取り巻く環境設定も、実に緻密に描かれている。読んでいるとひとつひとつの場面が鮮やかに浮かび上がってきて、自分も登場人物のひとりとしてそこにいるような錯覚に陥った。話の構成も見事で、最後まで読み手を惹きつけて離さない。ラストはほろ苦さも感じたが、きれいにまとめられていると思う。読みごたえのある面白い作品だった。

ゆこりん : 21:56 | 作者別・・み他