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2013年7月 5日

蘆火野(船山馨)


武田斐三郎に師事するべく函館にやって来た河井準之助は、斐三郎の下で働くおゆきと知り合う。勉学に励む一方で、料理の腕を振るう準之助。毎日かいがいしく働くおゆき。そんなふたりは、いつしか互いに惹かれあうようになる。だが、幕末から明治へと時代は激動の時を迎え、ふたりも巻き込まれていくことになる。準之助とおゆきの運命は・・・。

武田斐三郎、土方歳三、大鳥圭介、ブリュネ、新島襄など、歴史上の人物も数多く登場する。時代は激しく揺れ動いた幕末から明治。時代の波に翻弄され離れ離れになりながらも、おゆきと準之助はしっかりと心で結びついていた。数々の困難や試練がふたりを襲う。函館における官軍と旧幕府軍の戦いでは、命の危険さえ・・・。かろうじて函館を脱出したふたりはやがてフランスのパリへ。準之助の料理人としての修行が始まる。だが、パリもふたりにとって安住の地ではなかった。普仏戦争が始まり、ふたりを巻き込んでいく。「いつかふたりで函館に自分たちの店を。」準之助の願いは、ラストで切なさを読み手にもたらす。おゆきの運命にも涙した。
細やかで、そして味わいのある描写で、静かな感動を与えてくれる作品だった。日本の歴史やフランスの歴史にも触れられていて、そちらの方も読み応えがあった。

ゆこりん : 19:26 | 作者別・・ふ他