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2013年2月17日

めくらやなぎと眠る女(村上春樹)

めくらやなぎと眠る女(村上春樹)


聴力に障害のあるいとこを病院に連れて行くとき、彼は過去に聞いた物語を思い出していた。めくらやなぎの花粉をつけた蝿が耳に入り、女を眠らせる。そしてその蝿は、女の体の中身を食べていく・・・。いとこの耳と、眠る女の耳。目に見えないものの中にある重要なものとはいったい何か?表題作「めくらやなぎと眠る女」を含む6編を収録。

村上春樹さんの文章には、実にさまざまなメッセージが含まれている。読んでいるときには分からなくても、そのメッセージは確実に心の中に入り込んでいる。そしてそれは、日常生活を送る私の目の前にさまざまな感情を伴って突然現れる。恐怖、不安、感傷、憐憫、ときにはおぞましさも・・・。
6編の中で特に印象に残ったのは、「七番目の男」だった。波にさらわれたKのにやりと笑った顔が目に浮かんできそうで、背筋が寒くなった。「蟹」の気味悪さも、後々まで残るものだった。思わず手で口を押さえそうになった。「人喰い猫」では、猫がさまざまなものを食べる音が聞こえそうで怖かった。これらの話は、読んだあともかなり長い間心に残り続けた。完全に村上ワールドの世界に引き込まれてしまった。中には正直まったく理解できない話もあったが、それはそれで不思議な魅力を感じさせるものだった。読み手をこんなに複雑な気持ちにさせる作家は、他にはいないのではないだろうか。
長編とはまったく違う味わいがある作品だった。村上ファン必読の1冊だと思う。

ゆこりん : 19:46 | 作者別・・むらかみはるき