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2013年1月14日

64(横山秀夫)


「未解決誘拐事件を長官が視察」という難題が持ち上がった。今では"ロクヨン"と呼ばれる誘拐事件は、14年前に起こった。誘拐された7歳の少女は犯人に殺害され、無残な姿で発見されたのだった。「なぜ今になってロクヨン視察が?」誰の胸にも疑問が浮かぶ。実は、その視察には重要な意味があったのだが・・・。

容疑者の匿名問題をめぐって報道関係者と警察の対立が起きる。そんな最悪の状況の中で突如持ち上がった未解決誘拐事件の長官視察。長官はロクヨンのことを本当に真剣に考えているのか?いや、そうではない。そこに見えるのは警察内部の事情だった。だれも事件のことを真剣に考えていない。考えるのは、自分の保身や体面を取り繕うことだけだ。遺された被害者の家族は、どれほど警察に失望感を抱いたことだろう。それだけに、被害者家族の描写は読んでいて切ない。どんなに月日が経とうとも、色あせることのない悲しみがそこには渦巻いていた。読んでいて、その悲しみが生み出す執念に圧倒された。
この作品の中には実にさまざまな伏線がある。長くて途中読むのに飽きてしまった時もあったが、後半は一気だった。さまざまな伏線は、やがてラストを鮮やかに彩る。この結末にたどりつけて本当によかった。見事な締めくくりだと思う。
これだけの長さが本当に必要だったのか、疑問は残る。でも、読んだあとの充実感は格別のものがある。面白い作品だった。

ゆこりん : 20:33 | 作者別・・よこやまひでお