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2012年12月 5日

夜の国のクーパー(伊坂幸太郎)


「仙台の港から小舟に乗り、釣りに出かけたはずだったのに。」
気がつけば仰向けになったまま体を縛られていた。そこへ現れた猫のトム。彼は人間の言葉をしゃべる猫だった。8年間の戦争を終えたトムの住む国では、いったいこれから何が起きようとしているのか?トムは、語り始めた・・・。

戦争が終わり鉄国の兵士たちがやってきた。彼らはトムの住む国の支配者である冠人を殺害した。国家存続の危機に直面しても人々はどうすることもできない。支配する側とされる側。力の差は歴然だった。このまま鉄国の兵士たちの言いなりになるのか!?誰かが叫ぶ。「クーパーの兵士がいてくれたら!」けれど、本当にクーパーは存在するのだろうか?
この作品はファンタジー?それとも大人の童話?作者の独特の感性が織り成す世界は、独自の色彩を帯びている。強者と弱者の微妙な関係。それは人間だけではない。猫と鼠の世界にもあった。それらふたつの関係は、とてもよく似ていると思う。いつだって世界は誰かの犠牲の上に成り立っているものなのだ。「クーパーは、存続の危機にある国を救う存在となるのか?」ラストは意外な展開となる。仙台の釣り人が結末にどういうふうに絡んでくるのかが想像できてしまったが、それでもほほえましく読むことができた。クーパーは、トムの住む国において、今までとは違う新たな伝説になった。読後は爽快さを感じた。作者の熱い思いが込められた、不思議でふんわりとした作品だった。

ゆこりん : 18:21 | 作者別・・いさかこうたろう