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2012年10月 2日

クローバー・レイン(大崎梢)


家永という作家を家まで送って行った時に偶然見つけた原稿は、彰彦の心に深い感動を与えた。「これを本にしたい!」だが、現実は甘くなかった。1冊の本を世の中に出し多くの人に手にとってもらうためには、さまざまな困難を乗り越えなければならなかった・・・。

作家は、自分が書きたいと思ったことを文章にする。出版社は、それを本にする。小説を作るということは、そんなに単純なものではなかった。作者の思いが詰まった文章でも、編集者は作者に書き直しを依頼することがある。そればかりか、最悪はボツにすることだってある。本は売れなければならない。作者の思いと出版社の事情の間で、編集者は毎日身を削るように働いている。彰彦もそんなひとりだ。自分が気に入ったという理由だけで原稿を本にするなどということは、無謀以外の何ものでもないことは分かっていた。けれど彼は、自分が心を動かされた小説を数多くの人に届けるために、数々の困難を乗り越えていく決心をする。彰彦の奮闘は続く。部署を超えた連携や、ライバルたちや本屋さんの協力を経て、事態が動き始める。みんな本が好きなのだ。いい本を出すためには、さまざまなしがらみを捨て、境界線をも取り払ってしまう。そんな人たちの姿に、とても感動した。1冊1冊、それぞれの本にそれぞれのドラマが秘められている・・・。これからは、そんなことを考えながら本を読んでいきたいと思う。熱い思いが伝わってくる、面白い作品だった。

ゆこりん : 14:47 | 作者別・・おおさきこずえ