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2010年11月 8日

あんじゅう(宮部みゆき)


ある事件がもとで心に深い傷を負い、神田の三島屋という袋物屋を営む叔父夫婦のもとで暮らすことになったおちか。彼女は、人びとが心の内に抱える「不思議」を聞き出していた。ある日おちかは、「紫陽花屋敷」と呼ばれる空き屋敷にまつわる不思議な話を聞く。そこには、意外な「不思議」が隠されていた・・・。表題作「暗獣(あんじゅう)」を含む4話を収録。三島屋変調百物語シリーズ2。

まずひと言。うまい!本当に宮部さんはうまい!それぞれの話の中に込められた作者の思い。そのひとつひとつが、読んでいてしっかりと伝わってくる。きちっとしたテーマを持ち、ストーリーを構成していく。読み手をしっかりと物語の中に引き込んでいくその巧みさには、ただただ感心するばかりだ。
どの話も甲乙つけ難しという感じだが、特に心に深く響いたのは「暗獣」だった。くろすけがなぜ生まれたのか?そして、くろすけの宿命とは?人とくろすけとのふれあいがほのぼのとしている分、ラストは悲しみが深かった。いつまでも余韻が残る話だった。「逃げ水」は、誰からも必要とされなくなってしまうということの悲哀を描いている。人でも神でも、存在価値を認めてもらえないということは本当につらいことだと思う。「藪から千本」は、ひとり娘を愛する気持ちは同じなのに、心の中に闇を抱えてしまったために起こった悲劇を描いていて、読み応えがあった。「吼える仏」は、外部との接触を絶った里で起こった出来事を描いている。人の心は、仏にも鬼にもなる。人の心の醜さが里の運命を変えていくさまに、ぞっとする思いを味わった。
起伏に富んだストーリー展開や、登場人物の細やかな心理描写も、読み手を充分満足させる。読後も満足♪とても面白い作品だった。

ゆこりん : 17:51 | 作者別・・みやべみゆき