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2009年11月 4日

狂乱(池波正太郎)


身分が低いのに剣の腕は強すぎるくらい強い。上司のねたみは、石山甚市に手ひどくはね返ってくることになる。親にも恵まれず、孤独感を抱きながらやがて彼は変貌していく。「狂っているのでは?」と思うほどの残虐さの中に隠された彼の本質を見抜いたのは、秋山小兵衛だった。表題作「狂乱」を含む6編を収録。「剣客商売」シリーズ8。

今回の作品では、「人の心」について考えさせられた。表題作「狂乱」では、恵まれぬ環境やほかの者からのひどい仕打ちで心がゆがんでしまった男を描いているが、もし彼に理解者がいればそこまで心がゆがまなかったのでは・・・と思う。秋山小兵衛が気づいたときには、事態はどうにもならないところまで追いつめられていた。哀れというよりほかない。また、「仁三郎の顔」では、仁三郎の徳次郎への思いと大治郎への思いが極端に違い、憎悪と恩義の間を心が行ったり来たりする描写が面白かった。
この作品を読んでいると、さまざまな人間ドラマからさまざまな人たちの心が見えてくる。ほのぼのとする話ばかりではなく、時にはぞくっとする話もあるけれど、どれも読み手を惹きつける話ばかりだった。

ゆこりん : 20:00 | 作者別・・いけなみしょうたろう