« 脳治療革命の朝(あした)(柳田邦男) | メイン | 十津川刑事の肖像(西村京太郎) »

2002年4月13日

屍鬼(小野不由美)


古い因習がいまだに残る外場村。悲劇は突然に訪れた。次々に村人が不審な死を遂げる。そこへ引っ越してきた謎の家族。とどまるところを知らない村人たちの死は、しだいに村を不安におとしいれていく。やがて、その正体に気づいた村人たちは、村を救うべく凶器を持って立ち上がる。

この本は単なるホラー小説ではありません。恐怖という言葉のもとに、人間の持つ愚かさや、弱さ、残虐さを鋭く描き出しています。人間は「生きる」ために他の生き物を殺すことを厭いません。だが、「生きる」ために人間が人間を殺すことは、絶対に認めません。しかし、もし人間を殺さなければ生きていけないとしたら?殺さなければ自分が死ぬという事態に直面したとき、「誰も殺さずに、自分自身が死ぬべきだ。」と毅然として言えるでしょうか。そもそも、生きているとはどういうことでしょうか?体温があり、呼吸して、心臓が動いていれば、それでいいのでしょうか?全てが停止していても、その人の人格だけがしっかりと存在している場合はどうでしょう?「脳死」とは全く逆の場合があるとしたら、その人間は生きているのでしょうか、死んでいるのでしょうか?この本のラストに切なさを感じるのは、そういういろいろな思いが交錯するからではないかと思います。読みごたえのある、満足感が残る作品です。
「人とは?」「生きるとは?」こんな問いかけを自分自身にしたくなるに違いありません。

ゆこりん : 14:59 | 作者別・・お他